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テーマ 『健康と病気に関して』

講師:二階堂 久 テキサス大学サウスウエスターン医学校胸部外科教授

講演日、場所:6月4日(日)Holiday Inn Select Richardson

斯界の権威ともなればさぞや近付き難い雰囲気を有した気難しい方であろうと考えていたが、我々の前に姿を見せた二階堂先生は、実に温厚で周囲を暖かく包み込む雰囲気を有した紳士でありました。『医の原点は「思いやり」と「奉仕」にあると信じています』と先生は言い切られます。この確固たる医師としての姿勢は遠い過去に先生と繋がるご先祖も心掛けたであろう武士道における主たる構成要素の惻隠の情と公の精神に裏打ちされているのかとも思えたが、それのみならず寧ろ敬虔なクリスチャンとしての信仰心、それに基づく信念がバックボーンになっておられるようです。

(講演概要)

まず、統計は個々人の事情を斟酌できない飽くまで平均値であるが故あまり当てにならないと仰りながらも米国における年齢別の平均余命について数字を羅列され、各出席者は自分の歳に照らし合わせ、まだあと16年は大丈夫だとか、もう9年位しか生きていけないのかと顔を曇らせるなど、安堵と溜息の入り混じった静かな“どよめき”の中で講演は始まりました。

続いて先生は寿命三要素として、遺伝、疾病、養生を挙げられ、それぞれについて解り易く平易な言葉で説明された。興味深いエピソードや自らの経験談を折り混ぜての講演は出席者を惹き付けてやまず、二時間近い講演はあっという間に過ぎてしまいました。

まず遺伝ではここ15年位のこの分野での研究における進歩は驚嘆に値するとしながらも、やはり各人が自分の家族や先祖の疾病の歴史に注意を払い、それに対する予防的な措置を講じる事が大切だと説かれました。

続く疾病の項では、死因の過半数は心臓病(28%)癌(22.7%)脳卒中(6.4%)に帰するとしてそれぞれの原因や処置を詳述された。特に先生の専門分野である心臓病は熱意が篭って聞こえました。癌に関しては、5年生存率が15%と低い肺癌が米国における年間癌患者全体の28%も占めており特に注意を要すること、タバコは止めるに越したことはないが吸う本数の低減に努力することが肝要と指摘。また乳癌については年間211,000人も罹るが、致死率はその内の4万人と低いので定期健診さえしっかりやって早期発見に努めればそれ程怖れなくとも良い、また結腸、直腸の癌患者は年間15万人で、日本では患者数が比較的少ないが、グリーン会の皆さんはここ米国で生活しており食生活も当然程度の差こそあれ米国流になっている訳だから安心できない。50歳を過ぎたら定期健診が必要と指摘された。脳卒中については年間70万人の患者がいるが3時間以内にTPAという血栓を溶かす薬を投与すればかなりの確率で助かる。ここでもタバコが血管を収縮させる影響があるとして肺癌予防と同様喫煙の習慣を止めるように指摘された。またこれらの疾病の原因に深くかかわる高血圧の予防については、運動する事、塩分を摂り過ぎない事、アルコールや食事は適量を守る事、ストレスを溜めないこと等を推奨された。

最後の養生の項では江戸時代の本草学者である貝原益軒が著した養生訓のエッセンスである何事も程々に、つまり過ぎたるは猶及ばざるが如しということを常に意識して中庸の精神を持って人生を送ることが肝要ではないかと仰る。また人間至る処青山在り、つまり人生やるべきことをやれば何処で死んでも死んでも良いではないかという楽観的な決意を持つことによりストレスを溜めないこと、心の安寧を図ることも大切だと説かれた。具体的には癌検診を初めとした定期健診の大切さと医者の“有効利用”を推奨。米国ではGNPの15%が医療費で、一人当たり年平均6000ドルも費やしているにも拘らず、平均寿命は一人当たりの年間医療費がその約半分の日本のそれにはるかに及ばない。その原因を先生は医者との付き合い方が両国では異なる事に関係するのではと推測されている。日本では一部の権威主義的な大学病院を除き、医者には気軽に行けて冗談も交えながら話し合えるから医者は必然的に患者個人と親しくなり従って性格的なものを含めた患者の個人情報を多く有していることになるが、米国では医師たちが超多忙で患者と充分なコミュニケーションを交わすには時間がなさ過ぎるので、どちらかと言うと機械的、常識的な治療になってしまう傾向があるのではないだろうか、それが日米間の医療の質における差として具現しているのではと先生は推測されている。それ故、大切なことは良い優秀な医者を見つけて手放さないことと、自分が必要と考えた検査や、疑問に思ったことは遠慮しないで担当の医者に素直にぶつけてみることが大切なことですとこの有意義な講演を締めくくられた。

その後の質疑応答にも先生は笑顔で丁寧に応えて下さり、予定時間をはるかに越えてしまいました。ご多忙中にも拘らず無償で講演にお越し頂き感謝の言葉もございません。 出席者は平均年齢がかなり高いこともあり、今後の人生を如何に健康的に過ごすかは最も大きな関心事です。それ故皆さん熱心にメモを取りながら先生のお話に傾聴しておりました。先生の温かいお人柄に触れ、心が洗われた様な、何か癒されたような感じを持って会場を出たのは小生だけではなかったことでしょう。同邦人の誇りでもある先生の今後のご活躍を祈願して止みません。